備前焼体験 特別講師:松井宏之先生

2025年2月20日、21日、工芸科教育法・指導法の授業の一環で、備前焼作家の松井宏之先生にお越しいただき、備前焼の成型体験や、貴重なお話をうかがいました。

松井先生は、39歳で野村證券を退社し、陶芸の世界に入られました。森陶岳先生に弟子入りされ、現在は作家をしながら海外へ備前焼の魅力を普及する活動や大窯による古備前の再現プロジェクトなどに取り組まれています。

松井先生ホームページ:http://bizen-matsui.com/matsui.html


「備前焼はなぜ800年残ったのか」

①それぞれの時代で、様々なイノベーションによって、短所を長所に変えることに成功

備前土は信楽土に比べて収縮が大きく、われなどが起こりやすいという特徴があります。しかし、だからこそ複雑な模様…景色が生まれたり、自然による独特の見た目の魅力があります。

また、弱点を克服するために、時間をかけて乾燥させ、長時間焼き締めることで、「備前すり鉢投げても割れぬ」といわれるほどの丈夫さを手に入れました。

釉薬が定着しにくいという短所も、釉薬をかけなくても美しいように丁寧に表面をつくるという発想の転換をすることで、水漏れしにくい高品質な甕をつくれるようになりました。

②技術の高度化によるムラの無い高品質化を志向せず、多様性を許容する製造を続けた

第二次世界大戦以降は、備前焼は変革期を迎えます。大量生産によって省いてはいけない手間を省いてしまうと、灰が十分に飛ばないなどの品質の低下がみられるようになりました。

そこで、古備前を取り戻そうと大窯の再興に取り組まれたのが金重陶陽先生や、松井先生の師匠である森陶岳先生らです。

大窯で焼成すると、大量の雑木を燃やすため、大量の灰(ごま)が出て、それが備前焼の多種多様な景色を生み出します。

一つとして同じ焼き上がりにならないことを、規格外のようにとらえる方もいらっしゃるかと思いますが、松井先生は、それが一人一人の好みや愛着になったりすると語ってらっしゃいました。


・貴重な土をどう扱うか

本物の備前焼の土、伊部の土はもう深いところを掘らなければ残っていません。

机に残った粉や道具についた土も丁寧にかき集めて使える土に戻します。

私たちは普段便利なものに囲まれて、「ある」状態が当たり前になっていますが、そのものや素材がどこから来たのか、手元に来るまでにどんな人がどんな思いで関わっているのか、もっと感じたり考えたりしなければならないと思いました。

・プロの作家の生き方とは

自分の窯をつくるには、近隣住民や多くの人を納得させなければなりません。

また、弟子入りしたからといって、すべてを教えてもらえるわけではなく、はじめは8時間ずっと土練りの仕事をされていたそうです。

そのような忍耐力というか、謙虚さというか、なかなか真似できるものではないと思いますが、見習いたいと思いました。決してあきらめず、でも、一つの方法や考えに固執せずに柔軟に、すべてのもの・こと・人から学んでいるようなその姿勢は、人としてこうありたいと思わされるところがありました。


備前焼の成型体験では、台湾からの留学生も参加しました。

実際に土を触ってそのきめ細やかさや重さ、体温や部屋の湿度で土が変化していくのを感じながら、作品のイメージや生活の想像をふくらませていきました。

文:スイミー

岡山大学 清田哲男研究室

岡山大学で美術教育・創造性教育を研究している清田哲男研究室の学生・院生によるBLOGです。清田哲男教授のご指導の元、学部生7人、修士課程2人、博士課程3人、助教1人の計12人で、岡山大学を拠点に、教育の可能性を広げる研究・実践を行っています。子どもたちの豊かな未来を想い、日々活動しています。

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